本研究では、膵ベータ細胞への効率的な分化誘導を目的として、ベータ細胞の分化に重要と考えられる転写因子pdx-1の発現を制御できるシステムを導入したES細胞を用いて、in vitroで分化誘導した状態での細胞における発現遺伝子の影響を検討した。まず、テトラサイクリン制御下にpdx-1遺伝子の発現制御可能なES細胞を作製した。このpdx-1発現細胞を胚様体形成などの分化誘導した場合、インスリン産生細胞への分化が誘導されるかどうかを、RT-PCR、免疫染色などで検討した。その結果、インスリンを発現する細胞を認め、分化誘導が可能であることが示された。しかし、継代を重ねるとインスリン産生は減少した。そこで、ベータ細胞の分化に重要と考えられる種々の転写因子を発現するアデノウイルスベクターを作製し、この細胞に導入、同様な解析を行った。その結果、neuroD遺伝子を導入した細胞について、インスリン2遺伝子の発現上昇のみならず、インスリン1遺伝子が発現してくることが示された。また、グルカゴン、ソマトスタチンなど膵臓関連遺伝子の発現を認めた。 さらに、分化誘導の効率を上げる目的で、内胚葉系の細胞で発現するsox17遺伝子をテトラサイクリンで発現制御可能な細胞を作製し、同様な検討を行った。その結果、sox17の発現を誘導した細胞を分化させた状態で、pdx-1、mafAを導入すると、インスリン2遺伝子が発現することが確認された。以上、これらのベータ細胞の発生分化に重要と考えられる遺伝子の発現を誘導可能な細胞を用いることにより、関連すると考えられる転写因子、増殖因子の遺伝子を発現させ、in vitroにおけるベータ細胞への分化誘導のさらなる効率化に寄与する知見が得られるものと考えられる。
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