研究概要 |
方法:赤芽球系MEL細胞を用いて,ヘミン処理前後のBach1-エンハンサー複合体の動態をクロマチン免疫沈降法で検討した。この動態を,DMSOで誘導される細胞分化時の動態と比較した。結果: MEL細胞は,通常培養条件下ではグロビン遺伝子をほとんど発現しないが,細胞をDMSOで処理することにより,24時間内にmRNA転写が強く誘導される。この時間経過で,グロビンエンハンサーへのBach1の結合量をクロマチン免疫沈降法で測定したところ,誘導前にはエンハンサーにBach1がMafKとの複合体として結合しているが,DMSO処理後1日以内にBach1がエンハンサーから解離することが明らかになった。この間,MafKはエンハンサーに結合したままであり,Bach1の解離とともに活性化サブユニットp45(MafKとともに赤血球特異的転写因子NF-E2を形成する)がエンハンサーに結合してくることが判明した。Bach1の解離は,MEL細胞をヘミンで処理しても同様に観察された。既に他のグループから,DMSO誘導前でもクロマチンは活性化状態にあること,プロモーターにRNAポリメラーゼがリクルートされていることが報告されている。したがって,Bach1はHO-1と同様にグロビン遺伝子においても,エンハンサーに結合し転写を抑制するが,この抑制は活性化の前段階に相当する状況にあること,すなわち,Bach1はエンハンサーやプロモーターにおける転写複合体を途中の段階に留め置くことにより転写を抑制すると考えられた。さらに,赤血球分化とともに大量に合成されるヘムが,Bach1を標的としてその活性を変えることにより,グロビンエンハンサー上での転写抑制因子と活性化因子の動的変換を誘導する可能性が示唆された。これは,ヘム代謝とグロビン遺伝子転写とが共役する分子機構を成しているものと予想される。
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