(1)Id2欠損マウスにみられる小腸腫瘍は回腸中部に1個〜数個認められ、病理組織学的には様々なグレードのものが見られる。腫瘍部においてはβ-cateninの過剰発現も核移行も認められない。Smad4やCdx2などの発現をId2欠損マウスの腫瘍部で免疫組織学的に検討すると、Smad4は正常組織と変わらないが、Cdx2はId2欠損マウスの腫瘍部で発現が欠落している。Id2欠損マウスの腸管腫瘍は新生仔期にすでに認められるという特徴を持っており、この点を手がかりに現在も解析中である。 (2)Id2タンパク質の細胞内局在について検討し、Id2のHLH領域とC末端領域に、それぞれ核移行シグナルとCRM1依存性の核排出シグナルが存在することが判明した。Id2タンパク質は核と細胞質を常に行き来しており、定常状態では細胞質に主に存在することが明らかになった。 (3)Id2欠損マウスと転写因子であるC/EBPβの欠損マウスは共に妊娠乳腺上皮細胞の増殖障害を示す。Id2のプロモーター解析などにより、Id2がC/EBPβの直接の標的遺伝子であることを明らかにした。C/EBPβ欠損マウスの妊娠乳腺においては対照マウスにみられるId2の発現誘導が認められないことも確認した。 (4)Id2欠損マウスでは脾臓CD8陽性T細胞においてCDKインヒビターのタンパク質レベルでの発現亢進があり増殖障害をきたすことを明らかにした。 (5)Id2欠損マウスにみられる多動は線条体におけるドーパミンの放出亢進による。黒質緻密部のドーパミン作動性神経細胞においてはId2の発現はみられず、また、黒質網様部のGABA作動性神経細胞の数や分布に異常はみられず、現在も解析を継続している。 (6)Id2欠損マウスがヘテロでもホモでも、ヒトの場合に類似した腎盂尿管移行部狭窄による先天性水腎症を発症することを見いだした。
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