内耳幹細胞の表面マーカー分子と分化制御因子などを単離・同定・解析する目的で、胎令11.5日から12.5日のラットの内耳原器である耳胞を210個切除して集めて、それを出発材料にシグナルシークエンストラップ法により分泌経路タンパクcDNAをスクリーニングし、430個の陽性cDNAを得て、重複を除きながら塩基配列を決定した。その中には、NCAMやBMP受容体1AやIGF-IIやミッドカインなど、内耳の初期形成に関与することが知られている細胞間情報伝達分子が含まれた。新規なタンパクをコードするcDNAの1つをRO109と命名して解析を進めた。R-PCR法による発現解析で、RO109は、ラット胎生11.5の耳胞、成体の脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、精巣、脾臓、胸腺、膵臓に発現が検出された。RO109にコードされるタンパクのアミノ末端には疎水性アミノ酸クラスターがあり、分泌シグナル配列として働くと推察されたので、哺乳動物細胞発現系でタンパクを強制発現させて、RO109が分泌タンパクであるかどうかを調べた。FLAGタグをRO109のアミノ末端に付加した場合でもカルボキシ末端に付加した場合でも、遺伝子導入した293T細胞の培養上清にウエスタン解析で70KDのバンドを検出した。このことから、RO109は可溶性信号伝達分子である可能性が高まったので、その内耳発生や内耳幹細胞分化における機能は重要な検討課題であり、現在検討中である。
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