内耳は、耳胞から発生することが知られているものの、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。本研究では、耳胞に存在すると考えられている内耳幹細胞の表面マーカー分子や分化制御因子などによる内耳の発生メカニズムを解明する目的で、まず、耳胞から樹立したcDNAライブラリーからシグナルシークエンストラップ法により分泌タンパク質遺伝子を網羅的に単離し、次に、単離された候補遺伝子の内、新規なタンパク質をコードする遺伝子(OC29)の発現プロファイルを検討し、これらの成果をDevelopmental Dynamics誌に報告した。平成15年度には、胎齢11.5〜12.5日のラットの耳胞から作製したcDNAライブラリーからシグナルシークエンストラップ法により64個のcDNA候補クローンを得た。その中には、NCAM、BMP受容体1A、IGF-II、ミッドカインなど、内耳の初期形成に関与することが知られている細胞間情報伝達分子が含まれていた。新規遺伝子OC29は、RT-PCR法により、ラット胎齢11.5日の耳胞、成体の脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、精巣、脾臓、胸腺、膵臓にOC29の発現が検出された。OC29タンパク質を哺乳動物細胞発現系で強制発現させた結果、培養上清中に70KDaのバンドが検出されたことから、OC29は可溶性細胞間情報伝達分子であることが示唆された。平成16年度には、内耳の発生に伴うOC29の発現プロファイルを詳細に検討した。in situハイブリダイゼーション法による検討の結果、OC29の発現は、胎齢11.5日から内耳の外背部に広く検出され、胎齢12.5日には耳胞の予定感覚器領域と神経管に特異的に発現し、それ以降発現が減衰していくことが明らかになった。以上の結果から、OC29は内耳の感覚器領域の初期発生、特に三半規管の形成に寄与していることが示唆された。
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