研究概要 |
NOによる生体内での核酸ニトロ化反応に焦点をあて解析を行った。すなわち、NOによる修飾ヌクレオシドである8-ニトログアノシンの単クローン抗体を作成し、インフルエンザウイルス感染モデルや各種培養細胞における8-ニトログアノシン生成を検討した。さらに、8-ニトログアノシンによる新規の細胞内シグナル伝達機構について解析を行った。その結果以下の知見を得た。 (1)8-ニトログアノシンの大量有機合成法を確立し、抗8-ニトログアノシン抗体(多クローンおよび単クローン)を作成した。本抗体を用いて、マウスインフルエンザウイルス肺炎モデルにおける、8-ニトログアノシンの生体内生成を免疫組織化学的に解析した。その結果、インフルエンザウイルス感染マウスの肺組織において、iNosの発現に伴って、主に、気管支・細気管支上皮細胞の細胞質内に、8-ニトログアノシンが産生されることが分かった。よって、ウイルス感染病態におけるNO生成に依存した新規修飾ヌクレオシド8-ニトログアノシンの生体内生成を初めて証明できた。 (2)各種培養細胞内でのNO生成に依存した新規修飾塩基8-ニトログアノシンの生体内生成を証明した。さらに、NO生成を介して産生される8-ニトログアノシンは、ユニークな化学的反応性(レドックス活性)を有していることも分かってきた。すなわち、8-ニトログアノシンは、生体内に豊富に存在するNADPH依存性還元酵素、例えば、P450 reductaseやiNOSを含めたすべてのNOSアイソフォーム(血管型eNOS,神経型nNOS)により活性化され、活性酸素産生をもたらすことが明らかになった。興味あることに、NO産生に依存して細胞内に生成する8-ニトログアノシンは、細胞のヘムオキシゲナーゼ-1の発現誘導を介して強い細胞保護作用を示した。よって、宿主細胞の生存シグナルにNO・8-ニトログアノシンによる新たなシグナル伝達経路が存在することが示唆された。 (3)NO→8-ニトログアノシン生成経路に直接関わる新しいシグナル分子として、8-ニトロ-cGMP生成を想定して、8-ニトロ-cGMPの有機合成法を確立し、その特異的抗体の作製に成功した。特に、最終年度は、8-ニトロ-cGMPによる細胞内シグナル伝達機構について解析した。その結果、8-ニトロ-cGMPが、cGMPとしての本来のシグナル活性を有するだけでなく、cGMPには認められない、ユニークな生物効果をもたらすことが示された。 以上より、NOが8-ニトログアノシンや8-ニトロ-cGMP生成を介して細胞の生存シグナルを司ることが分かってきた。すなわち、NOによるグアニンのニトロ化が、全く新しいシグナル伝達機構として、重要な生理的機能を担う可能性が示唆された。
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