研究概要 |
本研究の目的は大腸癌の浸潤や転移において,細胞接着分子であるトロフィニンの役割を明らかにすることである.本年度は先ず大腸癌細胞株SW480細胞がトロフィニンの関連分子であるタスチンとビスチンを発現しているが,トロフィニン自体は発現していないことを見出し,この細胞に対してトロフィニンのcDNAを導入,G418で選択することでトロフィンを恒常的に発現するSW480-Tro細胞を4株樹立した.次にこれらの細胞株ならびに対照としてSW480-Mock細胞を用いて,トロフィニンの細胞浸潤能に与える影響をマトリゲルアッセイで解析すると,SW480-Tro細胞はSW480-Mock細胞に比べ,その浸潤能が2.5倍(平均値)に増加していた.一方,細胞増殖能をKi-67抗体による免疫染色で解析すると,SW480-Tro細胞はSW480-Mock細胞に比べ0.87倍(平均値)とむしろ軽度に減少していた.以上の結果より,大腸癌で発現するトロフィニンは細胞増殖能には影響を与えないが,細胞浸潤能を充進させることが明らかとなった.この事実は前年度の研究成果であるトロフィニンが大腸癌細胞の浸潤部で強く発現していることと良く相関している.トロフィニンが癌細胞の浸潤能と強く関連していることを示す同様の実験結果は,秋田大学,東北大学,バーナム研究所との共同研究であるヒト精巣原発の胚細胞腫瘍における検討からも明らかにすることができた(Hatakeyama et al.,Cancer Res 64,4257-4262,2004).
|