研究課題
慢性障害肝を背景に発生した肝細胞癌は、前癌病変である線腫様過形成から早期肝細胞癌、そして進行癌へと多段階的に進展し、さらに高率に多中心性に発生することが示されてきた。今回、肝細胞癌の多段階発癌と多中心性発癌の実際の頻度、背景因子との関連について系統的に検討した。対象は、10年間に外科的切除された初発肝細胞癌664症例、980結節を用いた。多段階発癌の定義は、(1)早期肝細胞癌;結節内に門脈域が残存する小結節境界不明瞭型の高分化型肝細胞癌(2)肉眼的あるいは組織学的におのおのの結節の周囲に早期肝細胞癌の領域が存在するのいずれかをみたす結節と定義した。肝内に結節が多発した症例の中で、より小さい結節が多段階発癌の定義をみたす症例あるいはおのおのの結節が異なった組織所見を示す症例を多中心性発癌と定義した。その結果、980結節の中で369結節(37.7%)が多段階発癌と診断された。また、664症例の中で177症例(26.7%)が多中心性発癌と診断され、多中心性に生じた結節の数は最多で9結節であった。HBs抗原陽性群、HCV抗体陽性群、HBs抗原+HCV抗体陽性群、HBs抗原+HCV抗体陰性で肝障害を伴う群、正常肝群の多段階発癌の頻度は、それぞれ19.1%、46.0%、37.9%、23.9%、0%であった。同様に多中心性発癌の頻度は、それぞれ16.5%、34.1%、31.5%、12.8%、3.1%であった。多段階的発癌と多中心性発癌の頻度は共に、HBs抗原陽性群よりHCV抗体陽性群の方が高かった(p<0.0001、p=0.0046)。HBs抗原+HCV抗体陽性群は、HCV抗体陽性群と同様の傾向が認められ、一方HBs抗原+HCV抗体陰性で肝障害を伴う群は、HBs抗原陽性群と同様の傾向を認めた。以上、多段階発癌と多中心性発癌はHCVに感染した症例に最も多く認めた。このことは、ウイルスにより発がんへの寄与が違うことを示唆するのみならず、慢性障害肝を伴った症例の治療の選択あるいはfollow upに際して考慮すべき点と考えられた。
すべて 2005
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