研究概要 |
1.脱分化脂肪肉腫:培養細胞系FU-DDLS-1を用いた分子細胞遺伝学的分析 脱分化脂肪肉腫は高分化脂肪肉腫の中に低分化の非脂肪性肉腫成分が出現するものであるが,その本態には不明の点が多い.これを明らかにするために,我々は脱分化脂肪肉腫からはじめて確立した培養細胞系FU-DDLS-1を用いて染色体分析,FISH,CGHおよび種々の免疫染色を施行した.FU-DDLS-1細胞は90代以上継代されており,SCIDマウスへ移植するとMFH様の腫瘍を生じ,原腫瘍の脱分化部と同様であったことから,脱分化脂肪肉腫のモデルとして利用できる.免疫染色ではvimentin,を発現し,一部の細胞はdesminに陽性であった.また培養細胞および移植腫瘍はmdm2およびp53に陽性であり、これらの発現が腫瘍の脱分化に関与している可能性がある.染色体分析ではFU-DDLS-1は複雑な核型と巨大マーカー染色体を有し,FISH分析で巨大マーカーは12番染色体の成分を含んでおり,CGH分析で12q12-q21のgainがあった.これらの細胞遺伝学的異常は,高分化脂肪肉腫と共通しており,脱分化部が高分化脂肪肉腫の細胞から生じたことを示唆する. 2.末梢神経腫瘍におけるMMP (matrix metalloproteinases), emmprinの発現 末梢神経性腫瘍におけるMMP発現に関する研究は極めて限られている。我々は同腫瘍におけるMMPおよびその産生促進因子であるemmprin発現と悪性化および浸潤性との関連と診断への応用の可能性について免疫組織学的に検討した。その結果、emmprinは悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)の約73%で高発現を認めたが、良性の神経線維腫(NF)では陰性であった。MPNSTの陽性例では、腫瘍辺縁における浸潤腫瘍細胞の同定に有用であった。MMP-9の高発現例は両者ともになく、MMP-2はほぼ全例で発現をみとめた。MT1-MMP発現はMPNSTの50%,NFの約5%に認められた。MMP inhibitorであるTMP-1,2およびRECKの発現に大差はなかった。また神経鞘腫では約60%の症例でMMP-9の高発現を認めており、plexiform typeにおけるNFとの鑑別に有用と考えられた。
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