研究概要 |
1.腺管分離法を用いてヒト正常胃粘膜上皮、腸上皮化生上皮を腺管ごと取り出しtotal RNAを抽出し、リアルタイムRT-PCR法を用いて、胃型分化マーカー(MUC5AC,MUC6)、腸型分化マーカー(MUC2,villin)の発現、腸に特異的なホメオボックス遺伝子(Cdx1,Cdx2)あるいは胃に特異的な転写因子(Sox2)の発現を相対的定量的に検索した。この結果、Cdx1,2は正常胃粘膜上皮では発現が認められなかったが、GI型の腸上皮化生からI型の腸上皮化生になるに従い、徐々に発現が増加した。一方逆に、Sox2は、正常胃粘膜上皮では発現が認められ、GI型の腸上皮化生からI型の腸上皮化生になるに従い、徐々に発現が減少した。以上の結果は、従来の胃・腸の分化マーカーの発現パターンとよく相関した。また、免疫組織学的検討の結果、Sox2は、胃腺窩上皮で発現が高く、腸上皮化生粘膜では低下し、一方でCdx2の異所性発現を確認した。これらの分離腺管上皮での解析にて、正常胃粘膜上皮から腸上皮化生に至る過程で、胃あるいは腸に特異的な遺伝子の発現制御が重要であることが確認された。 2.腸上皮化生だけでなく胃がんの形質発現も検索し、Cdx1,Cdx2との関係を検討した。ヒト進行胃がん70例でのCdx1,Cdx2の発現をmRNAレベルで検索したところ、胃がんの組織型とこれらのホメオボックス遺伝子の発現は無関係であった。しかし、Cdx1,Cdx2 mRNAの発現はGtype->GI type->I typeになるに従い増加した。抗Cdx2モノクローナル抗体を用いたCdx2の免疫組織化学的な検討では、Cdx2発現は、腸型形質発現を有する胃がん細胞に一致して発現し、組織型とは無関係であることが確認された。さらに、ヒト進行胃がん177例を用いた検討ではCdx2発現は、腸型形質発現と高い相関性を示しCdx2陽性胃がんの方が、陰性胃がんより5年生存率が良好であった。さらに、G型、GI型、I型、N型の4種類に分類される形質発現にて、5年生存率を検討した結果、GI型->I型->G型->N型の順に予後が良好であった。つまり、腸型形質を有する胃がんの方が、予後が良い結果となった。
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