研究概要 |
我々はヒト家族性大腸腺腫症(FAP)のモデルであるMinマウス大腸粘膜内に少なくとも20個以上の微小粘膜内病変が存在し、それらがすでにApc遺伝子のLOHを示すことを見いだした(Cancer Res.,2002)。免疫組織学的検討により、それらの病変はApc遺伝子のLOHによってもたらされると予想されるβ-catenin蛋白の蓄積を示した。強調すべきことは、一般的にMinマウスでは腸管腫瘍はほとんどが小腸に生じ、大腸腫瘍はごくわずかしか観察されないことである。これらの結果は小腸での腫瘍発生と異なり、大腸ではApcの不活性化だけでは腫瘍形成に不十分であることを示唆するものと考えられる。本研究では、Minマウスの大腸腫瘍と小腸腫瘍の比較により、大腸腫瘍に特異的に存在する変化を拾い出すことにより、粘膜内病変から大腸腫瘤形成に関わる変化を同定しようとするものである。 Minマウス大腸腫瘍において、K-ras遺伝子、p53遺伝子のダイレクトシークエンスを行った。いずれにも、ヒト大腸癌に見られるhot spotでの変異は観察されなかった。ヒト大腸癌のK-ras遺伝子変異陰性腫瘍において、高頻度にB-raf遺伝子変異が観察されることが報告されたため、B-raf遺伝子についても検索を行った。いずれにもhot spotでの変異は確認されなかった。6箇所のマイクロサテライトマーカー(D1mit36,D6mit59,D7mit91,D14mit15,U12235,JH104)を使用して、Cy5標識プライマーを用いてPCR法により増幅後蛍光オートシクエンサーで解析をし、マイクロサテライトインスタビリティーの検討を行った。いずれのマーカーにおいても明らかなインスタビリティーは確認されなかった。以上の結果を踏まえてMinマウスの大腸腫瘍を用いて免疫染色による細胞内集積蛋白の評価を行った。正常な腺上皮と比較してPLK1,Aurora A, cyclin D1,smad4,MGMT,NFκBはup regulateされておりp53は基底細胞と同等の染色性を示した。p16,COX2,IGF1,EphB2,EphB3nek2,TGFαに関しては一定した結果は得られなかった。現在、p53ノックアウトマウスとMinマウスとの交配によるF1、F2マウスを製作中である。 これらのマウス大腸粘膜内病変の検索により実験期間の短縮と遺伝子改変動物による発癌予防物質の評価に応用できると考えている。
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