研究概要 |
TNFα刺激により活性酸素(ROS)が誘導されることの明らかにされているマウス線維肉腫L929細胞を用いた解析から、この細胞ではTNFα刺激によりERストレスが誘導されることが明らかとなった。TNFα刺激により認められるeIF2αのリン酸化、PERKの自己リン酸化、およびXBP1のスプライシングおよびスプライス型のXBP1のタンパクレベルでの発現は、すべて抗酸化剤であるbutylated hydroxyanisole(BHA)により抑制されることが明らかとなった。以上より、L929細胞ではTNFα刺激によりROS依存性にERストレスが誘導されることが明らかとなった。一方、酸化ストレスを誘導することの知られている過酸化水素やヒ素酸はeIF2αのリン酸化は誘導したが、PERKのリン酸化やXBP1の発現は誘導しなかった。そこでTNFα,過酸化水素、およびヒ素酸により誘導される酸化ストレスの質的違いの有無を検討するために、二種類の異なるROS感受性蛍光試薬を用いて、それぞれの刺激により誘導されるROSの種類を検討した。その結果、過酸化水素やヒ素酸はスーパーオキサイドの蓄積誘導したのに対し、TNFα刺激はスーパーオキサイドの蓄積を誘導しなかった。以上より、酸化ストレスには質的な違いが存在し、ROS依存性に誘導されるシグナル伝達経路や細胞障害のメカニズムも異っていることが明らかとなった。今後、ROS産生の細胞内における場の同定を含め、この質的な違いについて詳細に検討していきたいと思っている。また逆に、ERストレスを誘導することの知られているtunicamycinでL929細胞を前処理することにより、TNFα刺激により誘導されるROS産生が抑制されることが明らかとなった。このことは、ERストレスにより誘導される遺伝子群の中に、TNFα刺激により誘導される酸化ストレスに対して抵抗性となる遺伝子群が存在することを示しており、今後それらの遺伝子群を同定して行く予定である。
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