研究概要 |
平成15年度の研究計画に基づき、ウェルシュ菌の病原性発現を制御するフェロモン(VAP)合成に関与する遺伝子を同定するために以下の研究を行った。 ウェルシュ菌の全染色体をカバーする遺伝子ライブラリーを大腸菌で作成し、ウェルシュ菌毒素非産生株SI112を一面に塗布した血液寒天上にライブラリーを含む大腸菌のコロニーを形成させ、大腸菌からVAPを受け取って溶血毒素の産生が回復するウェルシュ菌をスクリーニングした。その結果、明らかに溶血毒素の産生を回復させる1つの大腸菌クローンが得られ、その大腸菌の中には約6.0kbのDNA断片が含まれていた。このプラスミド上のDNA断片の塩基配列を決定したところ、3つの完全なORFが含まれており、それぞれをvapA,vapB,vapCと命名した。これらの遺伝子のウェルシュ菌での機能を解析するためにvapABC遺伝子の破壊株を作成したところ、複数の毒素産生が低下し毒素遺伝子の転写発現も低下していたことから、これらの遺伝子はウェルシュ菌のVAP産生に深く関わる遺伝子であることが明らかとなった。さらに解析を続けたところ、vapABC遺伝子変異株では細胞外フェロモンの産生が消失しており、細胞間シグナル伝達に関与する重要な遺伝子であることも判明した。 また、こうして得られたウェルシュ菌vapABC変異株を用いてDNAマイクロアレイ解析を行い、ウェルシュ菌の細胞外情報伝達による包括的遺伝子発現調節について試験的に解析を行ってみた。その結果、vap遺伝子変異株では非常に多数の遺伝子の発現が低下、あるいは上昇しており、毒素遺伝子のみならずさまざまな遺伝子の発現にVAPが関与していることが示唆された。また、VAPによって制御される遺伝子のレパートリーを解析すると、ウェルシュ菌の毒素産生を包括的に制御する二成分制御系VirR/VirSシステムのレパートリーとほぼ一致するため、VAPの受容体(センサー)はVirR/VirSシステムであることが予測された。
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