研究概要 |
1.百日咳菌の病原因子としての壊死毒の役割解析 壊死毒の組織および細胞での作用を高感度に検出するため、壊死毒作用の産物であるポリアミン化Rhoに対する抗体の作製を試みた。この目的のため、in vitroで壊死毒作用によりポリアミン化したRhoを抗原としてウサギ免疫血清を得たが、得られた血清は非修飾のRhoに対する抗体価が極めて高く、一方ポリアミン化Rhoに対する特異抗体価は低かった。そこで、百日咳菌壊死毒の特異的ウサギポリクローナル抗体を利用し、壊死毒素を高感度に検出できる酵素抗体法の系を確立した。本法は、0.2ng/ml以上の壊死毒素の検出を可能にした。この方法により、百日咳菌及び類縁の気管支敗血症菌(各々10株)の培養上清中の壊死毒素の濃度を測定した。その結果、菌の増殖に伴って培養上清中に遊離する壊死毒素の量が増加し、定常期までに百日咳菌で平均5.4ng/ml、気管支敗血症菌で平均2.0ng/mlの壊死毒素が検出できた。これらの濃度は壊死毒素の細胞に対する最少有効濃度を充分に上回っているため、菌の増殖中に菌体から遊離した毒素が感染局所の感受性細胞に充分作用しうることが推察された。また、気道組織における壊死毒の標的細胞を探索する過程において、ブタ由来の気管平滑筋初代培養細胞が本毒素に感受性であることがわかった。これは、線維芽細胞系以外での壊死毒感受性細胞の最初の例である。この事により百日咳菌感染において、菌体外に出た壊死毒が気道上皮から深部の平滑筋に至り、平滑筋細胞のRhoを介して易収縮を起こし、これが百日咳特有の咳嗽の原因となる可能性が考えられた。 2.百日咳感染モデルにおける病態解析 種々の気道上皮系細胞に百日咳菌を感染させて病態観察をしたところ,ラット肺胞上皮由来のL2細胞に、百日咳菌感染に特異的な細胞の形態変化が認められた。このことからL2細胞は百日咳菌の感染モデルとして格好の培養細胞株として利用可能であることがわかった。
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