研究概要 |
緑膿菌は重篤な難治感染症を引き起こす日和見感染症の重要な起因菌のひとつである。本感染症の化学療法の問題点は、種々の抗菌薬や消毒薬に対する本菌の高度自然耐性を示すところにある。緑膿菌の染色体上には、少なくとも12種類のマルチコンポーネント型多剤排出(Mex)システムがコードされている。これらのMexシステムのうち、いくつかのものが抗菌薬、消毒薬や色素の排出に機能し、異物に対する自己防衛機構として働くことが明らかにされてきた。本研究ではMexシステムの欠損株を作成し、その性状を解析することによって、(1)排出システムの発現がQuorum sensing機構によって制御され、逆に排出システムがQuorum sensing機構の発現にも機能していること;(2)in vitro内因感染症モデルであるMDCK細胞モノレイヤ透過実験での透過性の減少;(3)swimming,swarming, twitchingなどの運動性、プロテアーゼ産生、エラスターゼ産生、エキソトキンA産生などの緑膿菌の種々の病原性因子の産生に機能していることが分かった。また、別の実験でMexシステムの発現を容易に検出するシステムを開発し、臨床分離株での発現を調べ、Mexシステムの発現は臨床分離株の性状にも大きな貢献をしていることを明らかにした。以上の結果から、12種類のMexシステムの多くが主として抗菌薬耐性に働くのではなく、細胞内で合成した病原性発現を誘導する化合物を細胞外へ排出することで緑膿菌の病原性発揮に機能することが本来の生理的機能であることが明らかになった。
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