研究概要 |
哺乳類細胞では放射線や紫外線等DNA損傷を検知し細胞周期停止させその間に損傷したDMを修復したり、修復不能であれば細胞死を誘起するDNAチェックポイント機構が存在する。EBV溶解感染を誘導すると宿主細胞内ではEBVゲノムは100倍から1000倍増幅複製されまた組換え現象も起こる。このウイルスDNA合成を宿主細胞はDNA損傷即ち異常DNAとみなしDNA損傷チェックポイント経路を活性化するのであろうか?これまでEBV溶解感染を誘導した細胞はS期様環境を維持したまま宿主DNA複製が抑制され細胞周期停止を引き起こすことを明らかにしてきたが(J.Virol.77:851-861,2003,J Virol.78:104-115.2004)、DNA損傷チェックポイント活性化の有無を知るためEBV溶解感染誘導後の宿主チェックポイント因子のリン酸化の動態を解析した。EBV溶解感染に伴いATMが活性化され下流のhiston H21AX, Chk2,Chk1,P53,NBS1がリン酸化を受けていた。一方ATRのターゲットとして知られているChklser345のリン酸化は検出できなかったことからATR経路は活性化されていなかった。このときDNA損傷のセンサーとして働くMRN複合体、ATM及びp53の活性型はEBV複製領域に局在していた。しかし、p53及びp53の下流のP21、MDM2の発現量の増加はなく、p53の下流の経路は活性化されていなかった。このp53の下流シグナル経路の抑制機構の一つとして活性化型p53にBZLF1蛋白質が直接結合することによってp53の下流へのシグナル伝達が抑制されると考えられる。このようにEBV溶解感染を誘導すると宿主チェックポイント機構が誘起されるが、同時にp53から下流への伝達を抑制することで宿主細胞内をEBV複製に都合の良いようにS期様細胞環境を維持していることが明らかとなった。
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