胸腺内Tリンパ球は、正の選択に伴う細胞分化に連動して皮質から髄質へ移住する。しかし、この細胞移動を制御機構は不明であった。我々はこれまで、Tリンパ球分化における細胞移動を経時的に直接可視化して追跡する動態解析技術を開発することで、正の選択に伴う皮質から髄質への細胞移動にはCCR7ケモカインが必須の関与を示すことを明らかにした。そこで今年度は、CCR7とそのリガンドの欠損マウスを用いて、CCR7ケモカインを介した細胞移動制御が胸腺Tリンパ球の分化・選択にどのような意義を持つのか解析した。その結果まず、CCR7ノックアウトマウスでも正の選択に障害はみられず、正の選択を受けたT細胞が皮質にて蓄積していることが明らかになった。また、CCR7シグナル欠損マウスでも、H-Y抗原やMmtv抗原など全身性自己抗原に対する胸腺内での負の選択は正常に起こっていることが明らかになった。しかしながら、CCR7シグナル欠損マウスの胸腺で成熟したTリンパ球は、自己免疫性涙腺炎を引き起こす活性を保持しており、組織特異的抗原に対する中枢性トレランスの獲得に不全があることが示された。このとき、制御性T細胞の生成には異常が認められなかった。以上、本研究により、古くから知られていた胸腺細胞の皮質から髄質への移動がケモカインレセプターCCR7とそのリガンドによって制御されていることが明らかになると共に、CCR7依存性胸腺内髄質移動が中枢性免疫寛容の成立のために必須の意義を有することが明らかになった。(640文字)
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