研究概要 |
目的:肺がんをはじめ種々の疾病の予防策として、禁煙が個人および社会に果たしうる経済効果について、システムモデルを用いて検討し、費用効果的な喫煙対策の立案に資する基礎資料を得ることを目的とする。今年度は、喫煙および禁煙の経過に関するシステムモデルを開発するとともに、禁煙の経済効果に関する文献をレビューしてシステムモデルの精緻化を図る。 対象と方法:喫煙および禁煙の多様な経過を類型化し、喫煙・禁煙による罹患数・死亡数の変化、喫煙人口割合の変化、喫煙対策の進展等のパラメータを変動させることで、個人と社会の経済的負担の実態と将来の変化が推計できるシステムモデルを構築した。そして、性・年齢別喫煙率、喫煙本数、喫煙開始年齢、毎日喫煙対非喫煙者の死亡リスク、喫煙開始年齢別肺がんおよび全がん死亡率、喫煙による超過死亡数などのデータから、喫煙による医療費の増加額を算定した。 結果:システムモデルを用いて算定すると、がん医療費に占める喫煙を要因とするものの割合(全年齢、乳房、子宮以外は男女合計)は、肺がん52.1%、胃がん10.4%、結腸がん4.8%、直腸がん5.5%、乳がん2.9%、子宮がん6.1%である。喫煙によって増加する医療費は、肺がん1,865億円(男1,308億円、女557億円)、胃がん393億円、結腸がん181億円、直腸がん105億円、乳がん71億円、子宮がん38億円である。 結論:肺がんの医療費は喫煙によって1,865億円(3,582億円の52.1%)増加し、主要な6種のがんに限っても、喫煙で増加する医療費は年間2,653億円に上る。喫煙は、21世紀成熟社会における最大級の健康問題として、また深刻な社会経済問題として、その対策は焦眉の急と考えられる。
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