【研究目的】今日、喫煙に起因するさまざまな疾病の罹患・死亡を防止することは、健康問題としても社会経済問題としても、焦眉の急となっている。国際的には喫煙による死亡数の低減を目的とした「たばこ規制枠組み条約」が発効し、国内的には疾病予防を主眼とする「健康増進法」が制定され、平成18年度診療報酬改定では「ニコチン依存症管理料」が新設されている。本研究は、種々の疾病の確実な予防策としての禁煙が個人および社会に果たしうる経済効果についてシステムモデルを用いて検討し、費用効果的な喫煙対策の立案に資する基礎資料を得ることを目的とする。 【方法と対象】喫煙および禁煙の多様な経過を類型化し、喫煙による肺がんの罹患率および死亡率の増加から相対的な逸失利益(生涯賃金稼得額と平均医療費との差額)を算定するシステムモデルを開発する。非喫煙、喫煙、過去喫煙の3群の状態推移モデルを作成し、このモデルに文献等から渉猟したパラメータを投入する。感度分析により、妥当性を検証するとともにモデルの改良、精緻化を図る。 【結果と考察】肺がん罹患による医療費支出は、50歳男性の非喫煙者(3.4%)、現在喫煙者(同11.0%)、過去喫煙者(同3.7%)で、1人当たり13.7万円、45.0万円、15.1万円であり、逸失利益の増分は、現在喫煙者で107.4万円、過去喫煙者で4.2万円となる。60歳男性の逸失利益の増分は、現在喫煙者で148.9万円、過去喫煙者で3.7万円となり、70歳男性は、各142.9万円、2.8万円となる。現在喫煙者と過去喫煙者の罹患リスクに大差がないが、これは禁煙期間別のデータが入手できなかったためであり、詳細なデータが集積されれば、この差は大きくなる可能性がある。罹患リスクの変動による感度分析からモデルの信頼性は高いと考えられる。
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