研究概要 |
【目的】本研究は、種々の疾病の確実な予防策としての禁煙が個人および社会に果たしうる経済効果についてシステムモデルを用いて検討し、費用効果的な喫煙対策の立案に資する基礎資料を得ることを目的とする。 【方法】喫煙および禁煙の多様な経過を類型化し、喫煙によるがんの罹患率および死亡率の増加から相対的な逸失利益(生涯賃金稼得額と平均医療費との差額)を算定するシステムモデルを開発する。非喫煙、喫煙、過去喫煙の3群の状態推移モデルを作成し、このモデルに文献等から渉猟したパラメータを投入し、感度分析により妥当性を検証する。 【結果と考察】現在喫煙している男の肺がん罹患による1人当たり逸失利益の増分(相対損失)は、60歳149万円、70歳143万円をピークに20〜50歳で約100万円、75歳以降で減少する。女では、20歳の34万円から漸増し、70歳の86万円をピークに高齢になるにつれ減少する。過去喫煙では、男で若年の4万円から、年齢とともに漸減、女で18万円から同じく漸減する。肺がん罹患による医療費支出は、男2,449億円、女1,132億円、合計3,582億円であるが、このうち喫煙によるものの割合は、各53.4%、49.2%、52.1%である。喫煙が原因と考えられるがんの医療費が全体の医療費に占める割合は、男の胃がんで15%(376億円)、男の結腸がんで8%(170億円)、男の直腸がんで8%(99億円)、乳がんで3%(71億円)、子宮がんで6%(38億円)などである。喫煙によって7種の主要ながんに罹患することの損失は、罹患者1人当たり1,554万円(男1,930万円、女1,020万円)である。罹患リスクの変動による感度分析から、本システムモデルの信頼性は高いと考えられる。
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