研究概要 |
【トログリタゾンにより肝障害を発症した患者における自己抗体の検討】 トログリタゾン投与によって、肝障害の兆候が現れたために、投与を中断した患者2名の血清試料を入手し、血清中に出現する自己抗体の有無について検討を行った。その結果、肝サイトゾル画分に存在するアルドラーゼBという酵素に対する自己抗体を見出した。アルドラーゼBが自己抗体の抗原になることの最初の発見である。さらなる検討によって、この自己抗体はトログリタゾン特異的ではなく、慢性肝疾患の患者の多くに見出されたために、肝疾患のマーカーとしての可能性が示された。この研究成果は、英国の国際学術誌Toxicology,216:15-23(2005)に掲載された。 【リボゾームタンパク質P0の肝障害への関与】 2次元プロテオミクス法によって、トログリタゾン暴露によって発現が変動するタンパク質のスポットを、ヒト初代培養肝細胞およびHepG2細胞において網羅的に検索した。シャペロンタンパク質の一種である60S acidic ribosomal protein P0(P0)を見出した.P0のmRNAおよび蛋白質の発現量が、トログリタゾン暴露によって殆ど変化しなかった。さらなる検討の結果、P0蛋白質の脱リン酸化がトログリタゾン暴露濃度に比例して亢進し、pIが変化したために、2次元プロテオミクスで検出されたことが明らかになった。さらにカスパーゼ阻害薬Z-VAD.fmkによって、P0タンパク質の酸性変化(脱リン酸化)を阻害できることを見出した。本研究は、P0タンパク質の翻訳後修飾がトログリタゾンによる細胞毒性に関係していることを明らかにした最初の報告である。上記の内容をまとめ、国際学術誌に投稿中である。 【チオアセタミド誘発性肝障害における遺伝子発現変動の解析】 肝障害時における遺伝子の発現変動について、DNAマイクロアレイを用いて、ラットについて詳細に検討した。すなわち高濃度、中濃度と低濃度の3種類のチオアセタミド投与量について、投与後6、12、24、36、48時間後における肝臓のmRNAを抽出し、ラットの全ゲノム配列をカバーしているDNAマイクロアレイを用いて検討した。この研究の前に、当該研究室では、5種類の典型的肝障害性化合物について、同様の検討を行い、共通して発現変動を示す10種類の遺伝子を特定し国際学術誌に報告をおこなっている(Toxicological Science 87:296-305,2005)。これらの特定の遺伝子については、quality-threshold clustering解析によって、投与量に依存しない発現変動が認められることを初めて明らかにした。これは投与量に関係なく肝毒性の発症を予測できる可能性を示した最初の報告である。この内容は国際学術誌であるMutation Research 603:64-73,2005に発表した。
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