研究概要 |
研究代表者が1999年に武田薬品工業との共同で,世界で最初に報告したCCR5を標的とする抗エイズ薬TAK-779(Baba et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:5698)は経口吸収性がなく,毒性の問題から臨床開発を断念した。その後,経口吸収性を有し,臨床試験が可能な薬剤の探索を続けた結果,新規化学構造を有するCCR5拮抗薬TAK-220の同定に成功した。TAK-220はTAK-779とは基本化学構造が全く異なる化合物で,CCR5に対するリガンドであるケモカイン,RANTESおよびMIP-1αの結合を数nMの濃度において阻害する能力を有していた。しかしながら,TAK-220はCCR1-,CCR2b-,CCR3-,CCR4-,およびCCR7発現細胞に対するそれぞれのリガンド結合をμMオーダーの濃度においても抑制しなかった。TAK-779の場合は,CCR2bに対するリガンドの結合もかなり低い濃度で抑制したことから,TAK-220はTAK-779よりもさらにCCR5に特異的な拮抗薬であることが明らかとなった。次にわれわれは,培養末梢単核球を用いて,TAK-220が種々の逆転写酵素およびプロテアーゼ阻害薬耐性臨床分離株を含むR5HIV-1(CCR5をコレセプターとして用いるHIV-1)の増殖を非常に低い濃度(50%および90%平均有効濃度はそれぞれ1.1および13nM)で抑制することを証明した。一方,TAK-220はX4HIV-1(CXCR4をコレセプターとして用いるHIV-1)に対しては抗ウイルス効果を全く示さなかった。さらに,TAK-220は高濃度のヒト血清添加によっても,抗HIV-1活性は減弱しないことが分かった。以上,今年度の本研究において,研究目的とする「経口吸収性を有する低分子CCR5拮抗薬の同定」に成功し,同定された物質TAK-220は新しい抗エイズ薬として有望な候補者になり得ると思われた。
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