研究概要 |
近年、大気中微小粒子状物質(PM2.5)曝露による生体影響と酸化ストレスとの関係が示唆されており、キノン系化合物はその中心的役割を演じているとして注目されている。我々は9,10-フェナントラキノンが細胞内タンパク質の酸化亢進やアポトーシス様細胞死が生じるPM2.5中主要キノン系化合物であることを見出した。しかし、このような酸化ストレスに係わる9,10-フェナントラキノンの代謝反応の詳細は知られていない。一般にキノン系化合物が細胞内に取り込まれると還元的な代謝を受け、生成した2電子還元体はグルクロン酸抱合体として細胞外に排泄される。そのため2電子還元反応は"解毒反応"とされているが、当該代謝物が自動酸化されやすい場合にはレドックスサイクルを形成することから酸化ストレスに係わる"毒化反応"であることが示唆される。そこで本研究では、非細胞系における9,10-フェナントラキノンの酸化ストレスと細胞外排泄に係わる反応系の同定を試みた。その結果、A549細胞やキノン系化合物の2電子還元酵素として知られるAKR1C分子種を用いた検討より、9,10-フェナントラキノン曝露によって生じる酸化ストレスに起因した細胞毒性には、その2電子還元代謝物である9,10-ジヒドロキシフェナントレンの酸化によるレドックスサイクル形成が関与していることが示唆された。また、9,10-ジヒドロキシフェナントレンのグルクロン酸抱合は9,10-フェナントラキノンの活性代謝物である9,10-ジヒドロキシフェナントレンを細胞外に効率良く排泄する防御機構の一つであることも示された。
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