研究概要 |
動物実験や培養細胞を用いた実験より、大気中微小粒子成分は種々の有害作用を生じ、その主因は酸化ストレスであることが示唆されている。大気中微小粒子成分であるキノン系化合物はその化学的特性から、酸化ストレスの誘発剤であることが示唆されてきたが、その実態は明らかにされていなかった。そこで本研究では、9,10-フェナントラキノン(9,10-PQ)と1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)をモデル化合物として用いたインビボおよびインビトロでの検討を行った。その結果、酸化ストレスを生じるキノン系化合物は大気中ナノ粒子中に局在することが明らかとなった。9,10-PQに関しては、1)マウスに単回気管内投与すると、肺中IL-5およびeotaxinの増加が見られ、肺胞外に好酸球や好中球の浸潤が観察された。2)マウスヘの複数回気管内投与時では、LPSによって誘発される急性肺傷害を増悪させ、OVA特異的IgGとIgE産生を増加した。3)ヒト肺上皮由来A549細胞に曝露すると、細胞内タンパク質の顕著な酸化修飾とアポトーシスが生じた。4)9,10-PQはC32とC35のジチオール基とのレドックスサイクルを介して、アポトーシスを誘発するASK1を負に制御しているチオレドキシン活性を不可逆的に阻害し、マウス肺中タンパク質性チオール基の酸化が生じることを見出した。一方、1,2-NQに関しては、1)1,2-NQによって生じるモルモット気管リングの収縮作用には上皮成長因子レセプター(EGFR)を含む複数のプロテインチロシンキナーゼの自己リン酸化が関与すること、2)EGFRのリン酸化にはそれを負に制御しているプロテインチロシンフォスファターゼ活性の低下が関係していること、3)1,2-NQはNO依存性血管圧調節を撹乱すること等が明らかとなった。
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