研究課題
基盤研究(B)
小児期の気管支喘息における気道炎症と大気中微小粒子の影響を疫学的に評価するための指標として以下の検討を行った。1.呼気中一酸化窒素濃度を測定するため、一定の圧・流速で呼気を捕集することが可能なサンプリング管を作成したところ、呼気採取から6時間以内であれば再現性のあるデータが得られた。しかし、一定の圧力で呼気を捕集することは小児では難しいこと、年長児でも一人あたり5分程度要すること、気道炎症のほかに食事や飲水などの影響が認められること、大気汚染物質については急性影響が認められ、慢性影響の評価には問題があることなどから、現時点では小児集団を対象とした疫学調査で実施することは困難であると判断された。2.気管支喘息児が毎日測定しているピークフロー値と大気中微小粒子の濃度との関係を検討した。大気中微小粒子濃度の上昇により男子の起床時のピークフロー値は有意に低下したが、女子では有意な関連はみられなかった。観察されたピークフロー値の変化量は、微小粒子濃度50μg/m^3増加あたり-4.69L/minと大きくはなかった。3.大気汚染濃度の異なる3地域の小学生を対象として、血清高感度CRP濃度を測定した。低学年児で高く、成長とともに低下する傾向が認められ、喘鳴または喘息症状のある児童で高値であった。血清高感度CRP濃度が高値のものは、大気中浮遊粒子状物質濃度が高い地域ほど高率であった。二酸化窒素濃度との関係は有意ではなかった。以上のように、大気中の粒子状物質の増加と小児の気管支喘息におけるピークフロー値の低下、血清高感度CRP濃度の増加との関係が認められた。これらは大気中粒子状物質が小児の気道炎症を引き起こすことを示唆する所見である。しかし、観察された影響はいずれも軽微であり、その病態生理学的役割についてはさらに検討することが必要である。
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