研究概要 |
本研究は、農薬・重金属などの化学物質による水質汚染が問題となっているインドネシア西ジャワ州のチタルム河流域において、生態的条件が異なる3村(稲作農村、畑作農村、ダム湖周辺の養殖漁業村)を選択し、学童への健康リスクを評価し、その曝露経路を明らかにすること、またdose-response relationshipを修飾するような要因を検討することを目的とした。 初年度には、学童の生体試料(血液・尿)を収集して農薬への曝露を評価し、血中のAChE活性レベルと尿中の有機リン系農薬代謝物(DMP, DEP, DMTP, DETP)レベルの両指標において、ダム村で最も曝露が高いという結果を得た。同時に行った聞き取り調査の結果から、ダム村は農業従事者が少なく、飲料水が井戸水であることや淡水魚の摂取頻度が高い点で他の2村と異なることが分かり、農村とは別の曝露経路によるものと考えられた。翌年の調査では、曝露経路を明らかにするために、スポットチェック法による学童の行動観察を行うとともに、3村で飲食されている飲料水・淡水魚などの環境サンプルを収集した。環境サンプル中に残留する化学物質を測定することにより、飲食によって学童が受ける曝露レベルを定量的に比較することが可能になった。また、農村での曝露経路であろう農薬の使用・保管状況について聞き取りした結果、8割近くの農薬散布において中程度以上の毒性をもつ農薬が使用され、対象者の半数が農薬を家の中に保存していたことから、学童が生活環境中から曝露を受ける可能性は無視できないと思われた。また、ダム村ではダム湖での水使用や遊びについて質問をしたが、ダム湖を生活用水として使用する世帯も多く、曝露の原因ではないかと考えられた。 収集した子どもの生活環境や行動に関する全ての指標を総括したところ、農薬曝露レベルに最も影響を及ぼす要因、ならびに子どもの栄養状態による曝露の修飾についてのさらなる検討が将来的課題として重要であることが判明した。
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