研究概要 |
近年,花粉症等のアレルギー疾患の増加が著しく,各方面から重要な問題とされている。 本研究では日本列島の花粉症発症率の広範囲な地域差に着目し,それぞれの地域の環境要因や年齢階級別発症率の違いを総合的に把握し,花粉曝露の本態を疫学的に解析することを目的としている。対象地域は,富山県,新潟県佐渡、および鹿児島県屋久島である。 花粉調査により,スギ花粉は富山で屋久島より2倍以上飛散することが明らかにされた。地域住民6,148人に実施した自覚症状調査により,スギ花粉症有症率は富山で17.4%、佐渡で13.6%、屋久島では11.5%とスギ天然林の豊富な屋久島において低率であることが判明した。花粉症患者におけるスギ特異的IgE抗体分布(RASTクラス)は富山で高く,屋久島では低く、富山でアトピー型免疫反応(Th2)の亢進が示唆された。その背景に、花粉曝露量,気象要因、離島的環境要因等があげられた。 屋久島のスギ花粉アレルゲン(Cry j1)を電気泳動法、イムノブロット法で検討したが、立山スギと大きな差異は認められなかった。しかしながら、屋久杉花粉には粒径の個体差が大きく、自家蛍光特性にも変異が認められた。スギ花粉粒中に脂溶性物質(テルペノイド等)の存在が示されたが、その免疫影響は更に研究すべきものと考えられた。また,リアルタイム花粉計測装置の問題点が明らかにされ,花粉自家蛍光の解明が鍵と考えられた。 以上のように,スギ花粉飛散と花粉症発症の量反応関係が明らかにされてきた。量反応関係を軸としながら,各地域の環境要因の複合作用を考慮し,花粉症発症を統計的モデル化することは、未知の花粉アレルゲン解明や,その除去による予防効果評価のため有効な手段を提供すると考えられる。今後、伝統的食生活や森林環境の免疫系調整作用を含め更に研究すべきと考えられた。
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