研究概要 |
【目的】血中アディポネクチン(Adipo)レベルには性差があり,また,動脈硬化がより進行していると考えられる高齢者で上昇している。これらの成因につき,地域住民検診成績から加齢とAdipoとの関連を腎機能と性ホルモンの変化に着目し検討した。 【方法】住民検診受診者のうち薬物治療者を除いた男性372名(62歳),女性592名(59歳)を対象とし,BMI,収縮期血圧値(SBP), 拡張期血圧値(DBP), FPG, 総コレステロール値(TC),TG,LDL,尿素窒素値(BUN), 血清クレアチニン値(Cr), Adipoを測定した。10歳毎に最大21名ずつ無作為抽出した男性:123名(60歳),女性:114名(57歳)について男性はテストステロン(T),遊離テストステロン(free-T)を,女性はエストロン(E1),エストラジオール(E2)を測定した。 【結果】全対象のAdipoの平均値は男性で6.02±3.33μg/ml,女性で8.91±4.20μg/mlであり,男性に比し女性で有意に高値であった。Adipoは男女とも年齢,HDL, BUNと有意な正の相関を認め,BMI, FPG, TGと有意な負の相関を認めた。Adipoは男性では年齢と共に直線的な増加を示し,女性では50代まで急峻に増加した後漸増した。Adipoを従属変数とした重回帰分析では性,年齢, BMI, FPG, TG, HDLと同時にBUNは有意な独立変数として採択された(β=0.086,p=0.002)。男性でAdipoは年齢,Tと有意な正相関,BMI, free-Tと有意な負相関を認めたが,Adipoを従属変数とした重回帰分析では有意な因子としてfree-Tは採択されなかった。一方、女性ではAdipoとE1,E2に相関は認めなかった。 【結論】本検討ではBUNを腎機能の指標として採用した。Adipoの加齢変化はBUNの加齢変化と類似し,Adipoを従属変数とした重回帰分析では,BUNは有意な変数として採択され,加齢による腎機能変化がAdipo上昇に影響を与える可能性が示唆された。一方、生物学的活性を有するfree-TはAdipoレベルの有意な因子として採択されず,女性のE1,E2も同様であった。これらのことより,加齢でのAdipoレベル上昇は性ホルモン変化による影響よりは加齢腎機能変化の影響が大であると考えられた。この高齢者でのAdipo上昇が生物学的にどのような作用を持っているかは不明であり,今後更なる研究が必要であろうと考えられる。
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