研究課題
本研究では、筋肉内蛋白ミオグロビンに着目し、イムノアッセイによる定量、PCR法による断片化遺伝子検出、免疫組織化学による染色という3つの方法について、死後経過時間推定への応用を目的とした。死体体液中ミオグロビン濃度を用いた死後経過時間の推定については、まず旧年度の凍結保存試料ついて再検を行ったところ、平成16年度に解決したと考えていた定量値が安定しない試料の問題が再燃し、死後経過時間の推定基準の策定には至らなかった。ミオグロビン遺伝子DNAの断片化からの実験的死後経過時間推定(マウス使用)は、前年度までのデータへの追加データで予想(仮説)との乖離がみられた。この原因は、抽出DNA濃度が予想以上に不均一である可能性が考えられたので、抽出DNA濃度を定量の上、鋳型DNA濃度を一定にして検討したが、大きな改善までは見られなかった。人体例へ適用については、実施には至らなかったが、断片化ヒトミオグロビンDNAの増幅に適切なプライマー配列の決定には成功した。ミオグロビンの免疫染色による形態学的検討では、通常のホルマリン固定中にも生じ得る横紋筋からのミオグロビン漏出の問題を解決する迅速固定法として熱固定を採用した。その結果、ホルマリン固定中のミオグロビン漏出を示す結果が得られ、早期の死後経過時間推定には迅速固定が必要と考えられた。また、熱固定を採用すれば、横紋筋を用いたミオグロビン染色は、死後超早期の時間帯の死後経過時間の実験的推定に有用と考えられた。それと同時に、本研究の発展的成果として、通常のホルマリン固定の心筋や横紋筋の変化から死因を診断する従前の考え方には、根本的な見直しが必要であることも示された。