研究概要 |
15年度に実施した覚せい剤(MA)が検出された剖検症例の検討結果を踏まえ,腎臓に観察された免疫組織化学的変化の発現機序を明らかにする目的で,16年度は,ラットを用いて実験的にMAの腎臓に及ぼす影響を検討した.ラットにMAを単独投与(I群)(50 or 100mg/kg/day(i.p.)),繰り返し投与(II群)(10mg/kg/day(i.p.),5日間投与)した.免疫組織化学的に8-OH-dG,4-HNE, SOD, ssDNA, nNOS, HSP70,Ubを染色し観察した.腎臓機能検査として血中Cr, BUNおよび電解質K, Ca, Pを測定した.さらに,血中のミオグロビンとCPKを測定した.第I群では,免疫組織化学的に観察した結果,Ubの免疫反応性のみが腎尿細管で亢進していた.血清生化学検査の結果,Crは上昇し,K, Ca,およびPは有意に減少していた(p<0.01).従って,MAの急性中毒変化として,腎尿細管を傷害し,腎機能障害を引き起こす可能性が疑われた.また,血中CPKが有意に増加していた(p<0.01)ことから,この腎尿細管傷害は,筋由来のCPKの血中への漏出との関連性が考えられた.第II群では,免疫組織化学的に8-OH-dG陽性の核の数は増加していた.さらに,腎臓の8-OH-dG量は有意に増加していた(p<0.01).従って,腎臓に酸化的DNA損傷が発生しているものと考えられた.MAの反復投与によって酸化的DNA損傷が引き起こされたとものと考えられた.さらに,血中Caが有意に減少していたことから(p<0.01),II群においても,酸化的DNA損傷と関連して何らかの腎機能障害が生じているものと推測された.
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