外傷性ストレス強度の客観的評価のための法医脳神経病理および神経精神医学的研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15390217
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 研究機関: 大阪市立大学
• 研究代表者: 前田 均 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 教授 (20135049)
• 研究分担者: 朱 宝利 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 講師 (30305619) ; 切池 信夫 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 教授 (60094471) ; 渡辺 恭良 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 教授 (40144399) ; 権 力 大阪市立大学, 大学院・医学研究科, 外国人特別研究員
• キーワード: 外傷性ストレス反応 / 神経変性 / アポトーシス / ユビキチン / 神経伝達物質 / 虚血・低酸素関連因子 / 薬物乱用 / 精神・心理的反応

研究概要

外傷性ストレス強度の客観的評価基準を作成するため、剖検例について脳神経病理学的、病態生理生化学的および神経精神医学的に検討し、以下のような知見が得られた。
(1)免疫組織化学的検討:脳組織について、ユビキチン(Ub;神経変性の指標)、ssDNA(アポトーシスの指標)、ショック蛋白S-100およびグリア関連蛋白GFAPの免疫染色を行った。その結果、(1)中脳黒質神経細胞核内の封入体型Ub化と錐体路神経軸索の"点状"Ub陽性反応は窒息、"火災死"や心膜血腫合併胸部損傷などで増加(仮説:神経因性ストレス反応)、(2)黒質神経細胞核内びまん性Ub化率は溺死や覚せい剤乱用などで高値(仮説:代謝性ストレス反応)、(3)グリア細胞のUb化は覚せい剤乱用などで高値(仮説:遷延性ストレス反応)、(4)中脳水道灰白質神経細胞のUb化は"火災死"などで高値(仮説:痛覚性ストレス反応)を示した。また、(5)黒質神経細胞核内ssDNAは"火災死"、遷延死や覚せい剤乱用、(6)脳皮質神経細胞内のS-100は頭部外傷による遷延死、(7)GFAPは遷延性低酸素症や覚せい剤乱用などで陽性率が高かった。
(2)脳神経細胞の代謝性変化:RT-PCRにより虚血・低酸素関連因子のmRNAを測定した結果、脳幹部(中脳)において最も顕著な反応性増加が認められた。
(3)体液中の神経伝達物質:アドレナリンとノルアドレナリンは一般に急性死で増加していたが、ドーパミンは損傷死での増加傾向が強かった。
(4)神経精神医学的ストレス強度の分析:遺族らに対するアンケート調査の結果、精神・心理的反応の発生要因として、火災などのような事故・事件のきわだった悲惨さ、子の死、近親者や同居者の死などとともに独居や情報の乏しさが重要で、個々の例における事故・事件(誘因)と助長因子が多様に関与していることが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Zhu B-L, Quan L, Maeda H, et al.: "Postmortem lung weight in drownings : a comparison with acute asphyxiation and cardiac death"Legal Medicine. 5. 20-26 (2003)
• [文献書誌] Zhu B-L, Quan L, Maeda H, et al.: "Lung-heart weight ratio as a possible index of cardiopulmonary pathophysiology in drowning"Legal Medicine. 5. S295-S297 (2003)
• [文献書誌] Zhu B-L, Quan L, Maeda H, et al.: "Possible postmortem serum markers for differentiation between fresh-, saltwater drowning and acute cardiac death : a preliminary investigation"Legal Medicine. 5. S298-S301 (2003)
• [文献書誌] Maeda H, Zhu B-K, Quan L, et al.: "Pulmonary surfactant-associated protein A as a marker of respiratory distress in forensic pathology : assessment of the immunohistochemical and biochemical findings"Legal Medicine. 5. S318-S321 (2003)
• [文献書誌] Zhu B-L, Quan L, Maeda H, et al.: "Hemorrhages in the root of the tongue in fire fatalities : the incidence and diagnostic value"Legal Medicine. 5. S332-S334 (2003)
• [文献書誌] Zhu B-L, Quan L, Maeda H, et al.: "Ultrasonographic densitometry of the lungs at autopsy : a preliminary investigation for possible application in forensic pathology"Legal Medicine. 5. S335-S337 (2003)
• [文献書誌] 前田均: "犯罪・事故関連死亡者の遺族の精神・心理的反応:司法解剖例についての調査"賠償科学. 30. 69-75 (2003)
• [文献書誌] 権力, 朱宝利, 前田均: "脳炎後脳性麻酔による重度障害児の急死例-剖検における生化学・微生物学的検査の意義"法医病理. 9. 27-33 (2003)
• [文献書誌] 朱宝利, 前田均: "全自動心筋障害マーカー測定装置ストラタスCSの剖検診断への応用:予備的検討"日本法医学雑誌. 57. 57 (2003)
• [文献書誌] 権力, 朱宝利, 前田均: "外因性急死例の中脳におけるユビキチン免疫反応の定量形態学的分析"日本法医学雑誌. 57. 94 (2003)
• [文献書誌] 朱宝利, 権力, 前田均: "剖検診断のための腎臓における虚血関連因子の遺伝子発現動態の分析法"日本法医学雑誌. 57. 95 (2003)