研究代表者らは過去にエンドスタチンによる強力かつ広範囲な細胞内応答が血管新生抑制に関わることを発見し、「血管新生抑制シグナル」と銘々した。本研究では高感度real-time定量的RT-PCR法を用いることにより、ヒトに投与可能な多数の薬剤や化合物の中から血管新生抑制シグナル類似の細胞内分子応答を示すものを選択し、さらに血管新生抑制に関与すると考えられている血管内皮細胞遊走阻止作用や細胞増殖抑制作用、アポトーシス惹起作用をあわせて検討した。さらにこれらの検討から得られた血管新生抑制性候補物質の抗腫瘍効果、転移抑制効果を腫瘍移植実験動物を用いて検討した。これまで検討してきたいくつかのアンサマイシン系抗生物質をはじめ、一部の生理活性因子関連ペプチドの中に、顕著な血管新生抑制シグナルを惹起する物質があることが確認され、わずかながら一定の頻度でエンドスタチン型の血管新生抑制作用を有する可能性のある物質が存在する事が確認された。これらの細胞応答を示す物質がin vivoにおける抗腫瘍効果を予測するかどうか検討したところ、強力な血管新生抑制シグナルを示すものの一部で明らかな抗腫瘍作用、転移抑制作用を示すものが存在した。これらの物質が臨床応用可能な薬剤となりうるかについては、薬剤副作用の検討はもちろん、予期せぬ生理活性などについての検討を慎重に行わなければならないことから、血管新生抑制作用以外の様々な生体内作用、細胞内情報伝達系についての種々の基礎的な解析も併行して行った。
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