研究概要 |
本研究は、ヒトの正常な消化管におけるdefensinによる自然免疫機能としての感染防御への貢献を解明するとともに、炎症性腸疾患患者の消化管病変における内因性抗菌ペプチドの分子異常と機能異常を検討し、炎症性腸疾患の病因・病態への関与を解明することを目的とした。 その成果として,(1)インフォームド・コンセントの下に健常対照者、潰瘍性大腸炎およびクローン病患者から得た単離小腸陰窩において、いずれもalpha-defensin(HD-5)遺伝子が発現していた。抗HD-5抗体を用いた免疫組織化学的検討により、パネート細胞におけるHD-5の発現を確認した。(2)健常対照者と炎症性腸疾患患者の腸粘膜から小腸陰窩を分離し、RT-PCR法を用いてHD-5およびToll様受容体関連分子の遺伝子発現を解析した。その結果、健常対照者とクローン病患者では、HD-5およびToll様受容体遺伝子の発現パターンに違いが認められた。(3)健常対照者と比べて、クローン病患者では病変部近傍の小腸陰窩パネート細胞由来の自然免疫機能(内因性抗菌ペプチドの殺菌活性)が低下していた。(4)一部のクローン病患者ぼパネート細胞HD-5では、分子内のS-S結合が失われ、proteaseに対する抵抗性を欠くものがみられた。これらの分子のアミノ酸配列自体に異常はみられないことから,分子修飾課程の異常が考えられた。(5)三次構造が保たれ、trypsinなどのproteaseに対して極めて安定なリコンビナントHD-5を合成した.このリコンビナントHD-5を,マウスの致死的DSS腸炎モデルに経口投与すると、投与群での生存率が向上した。 以上の研究成果から,炎症性腸疾患の病態に自然免疫機構の異常が強く関与していることが明らかとなった.さらに,リコンビナントHD-5は腸管炎症制御活性を有することから,これを応用した新規の腸疾患治療法開発の足がかりが得られた.
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