研究概要 |
劇症肝炎や進行した肝硬変に伴う急性および慢性肝不全は予後が極めて不良である。これまでに種々の内科的治療法が試みられているが、十分な効果を挙げるところまで行っていない。私どもは肝幹細胞を移植することにより、重症肝不全に対する抜本的治療法を開発することを目指している。具体的には文字通りの肝幹細胞の単離をMusashi-1遺伝子をマーカーとして実現させ、病態に応じた戦略的治療法を開発しようとしている。 既に、胎生期の肝において、Musashi-1遺伝子が肝幹細胞に発現していることを報告している。平成15年度においては、ラット肝障害モデルにおいて、肝幹細胞であるoval cellがMusashi-1遺伝子を発現しており、その発現はjagged1およびnotchシグナル伝達系により制御されていることを明らかにしている。 平成16年度においては、ラット骨髄細胞をMatrigel上で培養すると7日目には紡錘形の小型で増殖性をもつ細胞が出現し、21日目には肝細胞索に類似した構造を形成した。同細胞はRT-PCR,蛍光免疫染色により肝特異的マーカー(アルブミン、AFP,サイトケラチン8)、さらには成熟肝細胞マーカーであるtryptophan-2,3-dioxygenase遺伝子発現を認めた。さらにGFPトランスジェニックマウス由来のCCL_4肝障害ラットの脾臓に移植したところ、14、28日目の脾臓内、門脈域にGFP陽性細胞が存在した。 本研究により、(1)骨髄内に肝特異的遺伝子を発現する細胞へ分化する細胞が存在し、その分化にはnotchシグナルが関係する、(2)in vivoにおいて骨髄細胞は肝障害が強い時に限り生着し、生着した細胞の分化にはnotchシグナルが関与している、(3)Matrigelを用いることで効率のよい分化誘導が可能であることを示した。同細胞を用いることで有効な肝再生療法となる可能性がある。
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