本研究は、H.pylori感染における胃発癌の菌体因子、宿主因子、及び菌体-宿主相互作用を解析し、H.pylori感染による胃発癌リスクの個体差を明らかにすることで、胃癌予防のためのオーダーメイド医療の確立することが目的である。本年度は菌体側の病原因子を解析した。我々は、H.pyloriが胃粘膜上皮細胞に感染すると、病原因子CagAが上皮細胞内に注入されチロシンリン酸化を受け、さらに、細胞内シグナル伝達分子であるSHP-2と特異的に結合することを明らかにした。そこでCagA-SHP-2複合体形成の臨床的意義解析のため、臨床分離株のcagA遺伝子のSHP-2結合部位の多型性と胃粘膜萎縮との関連を検討した。【方法】日本で最も萎縮性胃炎及び胃癌の発症の低い沖縄と福井の臨床分離株を用い、cagA遺伝子のSHP-2結合部位の塩基配列を決定し、CagAの多型と胃粘膜萎縮との関係を検討した。さらに、in vitro感染実験でCagAとSHP-2との結合能を検討した。【結果】CagAのSHP-2結合部位に日本株に特異的な配列を認めた。日本型のCagAは欧米型のCagAに比べSHP-2との結合が有意に強かった。福井株の全ては日本型のCagAであったが、沖縄では胃炎株の15.8%はCagA陰性で、15.8%が欧米型、68.4%が日本型のCagAであった。胃炎株では、日本型のCagA感染例において、欧米型のCagA感染例に比べ胃粘膜萎縮度が有意に高度であった。全ての胃癌株は日本型のCagAであった。【結論】日本型CagAはSHP-2との強い結合を示し、胃粘膜萎縮及び胃発癌に関与すると考えられた。
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