本研究は、H.pylori感染における胃発癌の菌体因子、宿主因子、及び菌体-宿主相互作用を解析し、H.pylori感染による胃発癌リスクの個体差を明らかにすることで、胃癌予防のためのオーダーメイド医療の確立することが目的である。本研究により、H.pyloriが胃粘膜上皮細胞に接着すると、CagAがH.pyloriから胃粘膜上皮細胞内へと注入され、チロシンリン酸化を受け、細胞の増殖や分化に重要な役割を担う細胞質内脱リン酸化酵素SHP-2と結合することが明らかになった。したがって、CagAを持つH.pyloriの感染は、ヒト上皮細胞のシグナル伝達系を刺激し、細胞増殖に影響を及ぼし、胃発癌に関与すると考えられた。また、cagA遺伝子はSHP-2結合部位に一致し多型性を示し、東アジア株に特異的な配列を認め、東アジア型のCagAは欧米型に比べSHP-2との結合が強いことを認めた。このCagAの多型の臨床的意義を解析するため、胃癌死亡率の異なるアジア地域(男人口10万対、福井:43.7、沖縄:18.2、中国:36.7、ベトナム:12.8、タイ:3.3)の菌株のCagAを検討したところ、胃癌死亡率と東アジア型CagAの頻度との間に相関が認められた。また、東アジア型のCagAを有する株の感染例において、欧米型のCagA感染例に比べ胃粘膜萎縮度が有意に高度であった。したがって、東アジア型CagAは胃粘膜萎縮及び胃発癌に関与し、東アジア型のCagAを持つH.pyloriの感染は、胃癌発症の危険因子であることが明らかになった。
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