DSS腸炎などの実験モデルマウスを用いて、抗IL-17中和抗体による分子標的治療の基礎検討を行った。まず、DSS腸炎において抗IL-17中和抗体の投与は、腸炎の悪化をもたらした。すなわち、このモデルにおいて、IL-17は腸炎の発症進展を抑制しているものと考えられた。細胞レベルでは、炎症惹起に作用するIL-17が、逆に生体内では腸炎の発症を抑制している。IL-17は粘液産生を刺激したり、RANTESの産生を抑制することが明らかになっている。IL-17を中和することによりIL-17依存性の粘液産生が抑制され直接的な上皮の腸管液への曝露と、粘液の安定化因子であるトレフォイル因子(上皮細胞のrestitution誘導因子)の減少による上皮細胞の担う修復機転の障害がおこり、腸炎の悪化遷延に至る。さらに、RANTESがT細胞に対する遊走因子であることを考えると、IL-17により抑制されていたT細胞浸潤が、IL-17中和により増強され粘膜の炎症を増強した。粘膜内のT細胞の浸潤については、免疫組織化学的手法により確認している。これらは、単純にIL-17活性中和が、腸炎の治療に結びつかないことを意味している。現在、新たなサイトカインIL-22についても同様の知見を見いだしており、今後の詳細な検討の必要性を痛感している。なお、これらの結果について、いくつかの論文として投稿済みもしくは投稿準備中である。
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