細胞を増殖させるには、その細胞が細胞周期のG1期からS期に移行する必要がある。しかし心筋細胞は生後すぐに増殖能を失い、G1期からS期に移行できなくなっていることが知られている。われわれは最近の研究で、cyclin D1という細胞周期促進因子が、分化した心筋細胞では核内に移行せず細胞質にとどまっていることを見いだした。増殖細胞ではcyclin D1が核に移行すると細胞周期が回り始めることから、心筋細胞では何らかの理由でこの因子を核へ移動できないため増殖しないのではないかと考え本研究がスタートした。われわれはまず、cyclin D1を核移行シグナル(Nuclear locanzing signals=NIS)により強制的に核に移行させるアデノウィルスベクターを作成し、培養心筋細胞に作用させた。その結果、cyclin D1が心筋細胞の核に移行し、本来増殖能を持たない心筋細胞を増やすことに成功した。本年はcyclin D1-NLSを導入した心筋細胞phenotypeの詳しい解析を中心に実験を行った。その結果、cyclin D1-NLSにより増殖した細胞は母細胞と基本的に同一であることが示された。さらに研究を動物実験に発展させ、成獣ラットの心臓にcyclin D1-NLSアデノウィルスベクターを導入し、G2-M期に特異的に発現するKi-67抗体で染色した。その結果、成獣ラット心筋にKi-67 positive細胞が増加していることが示された。このことよりcyclin D1-NLSアデノウィルスベクターは成獣ラット心臓でも細胞増殖作用を持つことが示唆された。今後上記の結果を踏まえ、cyclin D1-NLSアデノウィルスベクターを用いた心筋再生療法の開発とその臨床応用をめざす。
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