研究概要 |
われわれの研究室は従来、慢性心不全や急性心筋虚血などの心血管病態における心臓でのPKCの動態とそのアイソザイム特異性に着目し研究を重ねてきた。本研究において生きている正常細胞におけるPKCトランスロケーションの可視化に取り組み、現在SNP変異PKCをTransfectionしたCHO細胞におけるPKCの細胞質から細胞膜-核膜へのトランスロケーション速度を蛍光顕微鏡下に観察しうるシステムを確立するに至った。またbenzothiazepine化合物JTV519が虚血・再灌流によって生じる心筋障害を軽減することを見出しその機序を検討したところ、この薬物は細胞質内に拡散した後、PKCδアイソザイムのトランスロケーションを惹起することが明らかになった。興味あることにJTV519はPKCδの標的蛋白のリン酸化をむしろ抑制しており、それはPKCのアダプター蛋白であると判明したAnnexinVとの結合領域にてそのリン酸化部位を被覆することに起因していた。これらの結果は、心保護作用を有する本薬物がPKCδ蛋白とそのアダプター蛋白AnnexinVとの蛋白-蛋白結合様式に介入する全く新しい作用機序を有していることを示している。またわれわれの開発したダール食塩感受性高血圧ラット心不全モデルでは、心不全・心臓リモデリングに際してPKCβ_<I,II>の心筋内蛋白レベルの上昇を生じ、その抑制は心不全移行を遅らせることを報告した。PKCβ_<I,II>のリン酸化ターゲットとして筋原線維トロポニンTが想定されており、それは不全心筋でのカルシウム-発生張力関係の右方偏位の主たる要因である可能性がある。これらの結果をもとに、現在AnnexinVに結合ドメインを持ちPKCδに対して特異的な阻害効果を示すK201(JTV519)について、急性心不全、不整脈、狭心壁の各分野において第2相臨床試験が企画されつつある。
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