動脈硬化発症機構は未だ不明な点が多く、本研究は不飽和リゾフォスファチジン酸(LPA)の動脈硬化発症因子としての意義を検討し、動脈硬化発症の分子機構の解明および治療法の確立を目的とする。1、不飽和LPA特異的受容体のクローニング:(1)不飽和LPA刺激で活性化されるERKおよびp38MAPKを機能の指標とした発現クローニング、(2)放射性標識した不飽和LPAをリガンドとした受容体結合実験によるクローニングを行っており、現在スクリーニングの最終段階に入っている。2、動脈硬化増悪因子の同定:われわれが確立した分化型血管平滑筋細胞の初代培養系を用いて、EGFファミリーの増殖因子であるepiregulinが不飽和LPA刺激により血管平滑筋細胞より分泌され、さらに脱分化因子としてautocrine/paracrineに作用し動脈硬化症進展(増悪)に主要な役割を担っている事を明らかとした(Circulation.2003 18;108:2524-9.)。3、不飽和LPAによる動脈硬化発症モデルラットの解析:不飽和LPAによるin vivo血管内膜肥厚モデルを用いて、血管リモデリング発症には、ERKおよびp38MAPKの活性化による血管平滑筋細胞の形質転換(分化→脱分化)が必須である事をin vivoで明らかとした(Circulation.2003 108:1746-52.)。3、動脈硬化発症の細胞内情報伝達機構の解明:増殖因子の一つであるIGFが、分化型血管平滑筋ではチロシンホスファターゼであるSHP-2を活性化させる事により、Rasおよびその下流に位置し、血管平滑筋細胞の形質転換(分化→脱分化)に必須であるERK/p38MAPK系の活性化を遮断させる事を明らかとした(J.Biol.Chem.2004 279:40807-40818.)。この事により血管平滑筋細胞の強力な脱分化因子である不飽和LPA刺激に対しても、SHP-2の活性化が脱分化シグナルを遮断する情報伝達経路、すなわち動脈硬化発症を抑制するシグナル伝達機構として主要な役割を担っている可能性が示唆された。4、動脈硬化発症モデルマウスの作製:脂質合成に関与する酵素を過剰発現させる事で、脂質合成機能の異常をきたす事が予想されるトランスジェニックマウスを作製した。
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