研究課題/領域番号 |
15390249
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
吉村 道博 熊本大学, 大学院・医学薬学研究部, 助教授 (30264295)
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研究分担者 |
小川 久雄 熊本大学, 大学院・医学薬学研究部, 教授 (50177135)
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キーワード | アルドステロン / デハイドロエピアンドロステロン / 心不全 / コルチゾール / CYP17 / CYP11B1 / CYP11B2 / 冠静脈洞 |
研究概要 |
我々はこれまでにヒト心臓でのアルドステロン(Aldo)の合成・分泌を報告してきた。Aldoは不全心のみならず高血圧の心臓からも分泌されていることを示している。心臓からのAldoの分泌は、心臓でのステロイド合成系の存在を意味するものであり、心臓病学に新たなる概念を齎している。 副腎においては、球状帯においてAldoが合成され、束状帯においてCortisolが合成される。網状帯においては、Dehydroepiandrosterone (DHEA)が合成されることより、心臓におけるこれらの一連のステロイド合成系の存在を想定し、その合成酵素の遺伝子発現とともに検討した。まず、剖検心を用いて、心臓死と非心臓死におけるCYP17の酵素の遺伝子発現をreal-time PCR法で検討した。今までヒト心臓ではCYP17は発現しないと言われてきたが、今回の検討で間違いなくCYP17の発現を認め、心臓でのDHEAまたはcortisolの発現の可能性が高まった。次に、実際に心臓カテーテル検査にてAldoとDHEAを大動脈基部と冠静脈洞にて同時測定した。その結果、DHEA濃度が心臓の入り口であるAoと出口であるCSにおいてステップアップしていることが示された。更に興味深いことに、心機能が保たれている心臓と不全心においては、AldoとDEHAの分泌パターンは全く逆転しており、不全心でAldoが、健常心でDHEAが分泌されることが明らかとなった。Cortisolに関しては、今回の検討では心臓からの分泌は認めず、また、剖検心においてもCortisol合成酵素であるCYP11B1の遺伝子発現は認めなかった。Aldoが酸化作用を有するホルモンであるのに対して、DHEAは抗酸化作用を有するホルモンであり、その対比は興味深い。Angiotensin IIはCYP17の持つ2つの酵素活性のうちP450 reductase活性化を抑制する可能性があり、DHEA合成への道を遮断し、逆にCYP11B2の活性を亢進させると想像できる。よって、結果的にAldo合成が亢進するが、そうすることで更にACE遺伝子発現が亢進し(既報)、組織RAAS活性は悪循環を形成する。つまり、心臓においては、ステロイド合成系の中に組織RAASの悪循環系が存在するという極めて興味深い結果が導かれた。この新しい発想に基づくと、全く新規の心不全治療法が浮上する。
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