研究概要 |
本年度は自己免疫性心筋炎および甲状腺機能亢進症による心肥大・心不全モデルを用い、インスリンシグナル伝達経路の活性調節による心不全治療の可能性を検討した。 1.自己免疫性心筋炎モデルにおけるラパマイシンの効果 心筋ミオシンをLewisラットに免疫し自己免疫性心筋炎を発症させた。このモデルでは心筋炎による心機能低下のため心不全を発症する。このモデルにラパマイシン(2mg/kg/day)を投与し19日間経過観察した後ラットを屠殺し心臓を解析した。心筋炎を起こした組織ではラパマイシンの標的分子の1つであるS6キナーゼの活性が増加していた。ラパマイシンはラットの生存率を有意に増加した。ラパマイシンは心筋炎に伴う心重量の増加を抑制し、心筋組織の炎症細胞浸潤と線維化を抑制した。また、ラパマイシン非投与群では心不全のマーカーである血液中のbrain natriuretic peptide (BNP)が増加していたがラパマイシンはBNPの上昇を抑制した。心臓超音波検査にてラパマイシン非投与群では心拡大と心筋収縮力の低下がみられたが、ラパマイシン投与は心機能を改善させた。 参考文献:Maeda K, Shioi T. Rapamycin attenuates ventricular remodeling in a rat model of autoimmune myocarditis. The 75th Scientific Sessions of American Heart Association, November 9-12, 2003, Orland, USA [Circulation. 2003 ; 108 : IV-59]. 2.甲状腺ホルモンによる心肥大におけるphosphoinositide 3-kinase (PI3K)の役割 甲状腺機能亢進症は心肥大や心不全の原因となる。マウスに甲状腺ホルモンを2週間投与すると心重量は27%増加した。PI3Kの活性を阻害するdominant-negative PI3Kを心筋特異的に発現したトランスジェニックマウスに甲状腺ホルモンを投与した場合の心重量の増加分は、甲状腺ホルモンを投与しなかったトランスジェニックマウスの9%であった。よってPI3Kの活性を抑えることにより甲状腺ホルモンによる心肥大を抑制することができた。
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