研究概要 |
多発性硬化症(MS)は中枢神経系白質に炎症性脱髄巣が多発し軸索傷害を来して進行する難病である。MS発症は遺伝的要因と環境因子の相互作用により規定されている。陳旧性脱髄巣はアストロサイト(AS)の形成するグリア瘢痕でおおわれ、髄鞘再生や軸索伸長が阻害され神経学的障害が完全に回復しない要因となる。MSではインターフェロンベータ(IFNB)が治療薬として用いられているが作用機序は十分解明されておらず、神経学的後遺症回復には無効であり、髄鞘再生や軸索伸長促進を標的とする再生医学的治療法開発が切望されている。本研究は(1)MS疾患特異的遺伝子の同定、(2)MSにおけるIFNB応答遺伝子群(IRG)の同定、(3)ASによるグリア瘢痕形成の分子機構、特に14-3-3蛋白質の役割の解明、(4)MS病態における軸索伸長阻害因子Nogoの役割の解明を目的とする。本年度の研究成果は(1)遺伝子アレイによるMS特異的遺伝子発現プロフィールの解析:MS患者末梢血リンパ球では健常者に比較してアポトーシス制御遺伝子群の発現異常が見られることを報告した(投稿中)。(2)遺伝子アレイによるMSにおけるIRGの同定:IFNB治療中MS患者末梢血リンパ球における21種類のIRGを同定した(J.Neuroimmunol.139:109-118,2003)。(3)ASによるグリア瘢痕形成の分子機構の解析:MS病巣の反応性ASにおける14-3-3蛋白質epsilon isoformの発現亢進を発見し、ヒトAS純培養のプロテオーム解析により14-3-3蛋白質がASの細胞骨格中間径フィラメントvimentinおよびGFAPと結合していることを証明した(投稿中)。(4)MS患者血清・髄液抗Nogo抗体の測定:抗Nogo抗体はNogoによる軸索伸長阻害活性を中和し、臨床的に神経学的予後判定の指標となる可能性がある。患者血清・髄液中の特異抗体の測定のため、現在リコンビナントヒトNogo-A,Nogo-66,NgRのウエスタンブロットアッセイ系を構築中である。
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