研究概要 |
ジストロフィン欠損による筋ジストロフィーにおいては、膜の機械的強度の低下が病態の中心であると考えられてきたが、最近では細胞内シグナル伝達機構の異常の関与も注目されている。我々はジストロフィン欠損で、二次的に形質膜から失われるジストロフィン結合タンパク質の一つであるα1-シントロフィンの欠損マウスにおいて、筋再生異常を生ずることを明らかにした(J Cell Biol158:1097-1107,2002)。同欠損マウスにおける筋再生異常は、ジストロフィン欠損による病態の少なくとも一部を再現しているものと考えられる。今年度は、マウスに対し尾部懸垂により微小重力を負荷した場合に筋に萎縮を生ずるが、懸垂を解除すると比較的速やかに回復が認められる。この現象に、α1-シントロフィンが関与しているかどうか検定した。まず、懸垂を行ったヒラメ筋をジストロフィン-糖蛋白質複合体を構成している分子を中心に、免疫組織化学的に詳しく検討すると、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の発現が筋鞘から減少していることが判明した。さらに、nNOS欠損マウスに対して尾部懸垂負荷を行ったところ、筋萎縮に対して抵抗性を示すことが明らかになった。そこで、回復期の骨格筋について検定したところ、nNOS欠損マウスでは、有効な筋線維横断面積からの有効な回復が観察されず、また、α1-シントロフィン欠損マウスでは、尾部懸垂に対しては、筋萎縮を示すが、回復期には正常対照筋と比べて明らかに筋肥大を示していた。これらの実験から、nNOSが重力を感知する系に組み込まれていること、α1シントロフィンは筋の肥大現象と関与が深いことが明らかになった。今後はこれらの現象をさらに分子レベルで解明するためにmicro-array及びproteomeを用いた解析を行う。
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