研究概要 |
本研究は、肥満・糖尿病に対する新規治療法を開発することを目的としたものである。実際には、高脂肪食負荷により肥満・糖尿病を発症させたマウスモデルを用い、後天的に遺伝子導入を行うことで、その改善効果やその機序に関して検討している。 まず、肝臓における代謝亢進を目的として、脱共役蛋白UCP1遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを用いて、肝への遺伝子導入を行った。高脂肪食負荷により肥満・糖尿病を惹起させたマウスへの遺伝子治療では、エネルギー消費は約13%亢進し、導入後数日で、肥満の解消、血糖値の改善、血中脂質の低下といった治療効果を認めた。脂肪肝は著明に改善し、遺伝子を導入していない末梢脂肪組織においても、その肥大化の改善が認められた。一方、標準餌にて飼育された非肥満マウスでは、これらの効果は全く認めず、UCP1遺伝子の肝臓への導入は、余剰カロリーのみを消費させることが示唆され、肥満・糖尿病に対する有望な治療ターゲットであると考えられた(Ishigaki, Y., Katagiri, H. et al. Diabetes 54,322-32,2005)。 次に、副睾丸周囲の内臓脂肪組織へのUCP1遺伝子導入により、視床下部におけるレプチン感受性改善を通じて摂食抑制が生じ、血糖値やインスリン抵抗性の改善を認めた(投稿中)。 このように、後天的に局所への遺伝子導入を行うという手法を用いることにより、導入組織(臓器)での効果はもちろんのこと、他組織(臓器)への遠隔効果を認めたことから、これらの臓器間シグナルのやり取りが、メタボリック症候群に対する治療法の新たなターゲットとなりうることが示唆された。
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