私共がDifferential display法を用いて、皮下脂肪に対して内臓脂肪で約10倍多く発現する遺伝子として同定したビスファチンの解析を進めた。ビスファチンは脂肪細胞の分化誘導作用をもつことから、シグナル伝達機構を解析した。ビスファチン蛋白を培養3T3-L1細胞へ添加し、各種シグナル因子のリン酸化レベルを測定した。その結果インスリン受容体と下流のシグナル因子が活性化されることを見出した。さらにL6細胞、H4II細胞、初代培養脂肪細胞でも同様にインスリン受容体下流の経路の活性化が見られた。精製したビスファチン蛋白をヨード標識し、細胞への結合を確認した。HEK293細胞ヘインスリン受容体を過剰発現することで、ビスファチン蛋白の結合が増加することを見出した。HEK293細胞に発現させたインスジン受容体を免疫精製し、ビスファチン蛋白との結合を調べたところ、インスリン受容体とビスファチンは直接結合することがわかった。以上のことからビスファチンはインスリン受容体リガンドであることが明らかになった。 ビスファチン蛋白を各種細胞に添加し、インスリン様の生理作用を有することを確認した。インスリンに反応して糖取り込みが上昇する3T3-L1細胞、L6細胞、糖新生が抑制されるH4II細胞に対してビスファチンを添加したところ、3T3-L1細胞、L6細胞で糖取り込みの上昇が、H4II細胞で糖新生の抑制が見られた。生体内でのビスファチン作用を明らかにするためにc57コントロールマウス、KKAy(二型糖尿病モデルマウス、STZ処理したc57マウス(一型糖尿病マウス)に対してビスファチン蛋白を静脈注射したところ、血糖低下作用を認めた。また、ビスファチンを発現するアデノウイルスを作成し、マウスに感染させたところ血糖低下作用を示した。以上のことからビスファチンはインスリン受容体を活性化し、脂肪細胞分化誘導作用、血糖低下作用を示すことが明らかとなった。
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