研究概要 |
本研究では、血管におけるレプチンの直接作用に注目して、1)虚血性網膜血管新生の進展におけるレプチンの病態生理的意義と2)動脈硬化症のバイオマーカーとしての可能性について検討した。1)新生仔期の高酸素負荷により、野生型マウスでは著しい虚血性網膜血管新生を認められた。レプチンを欠損するob/obマウスでは明らかに抑制されていたが、レプチン過剰発現マウスでは網膜血管新生の亢進が認められた。ob/obマウスの網膜組織におけるVEGF遺伝子発現は野生型マウスと比較して有意に抑制されていたが、レプチン過剰発現トランスジェニックマウスでは増強していた。網膜血管内皮細胞にレプチン受容体の発現が検出され、正常および低酸素条件下の培養ブタ網膜血管内皮細胞において、レプチンはSTAT3活性化を介してVEGF遺伝子発現を亢進することが証明された。2)肥満・2型糖尿病患者では、血中レプチンあるいはアディポネクチン濃度と脈派伝播速度(pulse-wave velocity ; PWV)の間に有意な相関は認められなかった。しかしながら、レプチン/アディポネクチン比はPWVと有意な相関を認められた(r=0.305,P=0.0455)。以上より、肥満に合併する糖尿病における動脈硬化症の進展には、血中アディポサイトカインが重要なメディエーターであると考えられ、動脈硬化症のバイオマーカーとしてのレプチン/アディポネクチン比の有用性が示唆された。 以上より、肥満者では、視床下部を介するレプチンの抗肥満作用についてはレプチン抵抗性の状態と考えられているが、レプチンの血管作用含む末梢作用についてはレプチン感受性の状態と考えられ、選択的レプチン抵抗性が肥満やメタボリックシンドロームの病態の形成に関与すると考えられた。
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