我々はこれまでに、感染や組織傷害にともなって、病原体や宿主細胞のゲノムから遊離・放出される二本鎖DNA(dsDNA)などの核酸成分が、自己免疫標的臓器である甲状腺細胞などにI型インターフェロンや炎症性サイトカイン、ケモカインなどの分泌を誘導するとともに主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)を初めとする様々な遺伝子発現を誘導し、in vivoで強いアジュバント作用を有することなどを示した。それらの研究過程でToll様受容体(TLR)のリガンドが甲状腺機能に影響を与えることを認めたところから、今年度はこの機序を中心に検討を行った。その結果、甲状腺細胞自身にもTLRが発現し病原体構成成分(Pathogen-associated molecular patterns : PAMPs)を認識することによって細胞内シグナルを活性化して、I型インターフェロンや炎症性サイトカインなどの遺伝子発現を誘導することが明らかとなった。PAMPsの中では特にウイルス由来の2本鎖RNA(dsRNA)に対して強い反応を示し、その結果としてヨードの取込みや甲状腺ホルモンの合成・分泌などの甲状腺内分泌機能は抑制される事が明らかとなった。これらのことから、ウイルス感染を契機として、そのdsRNAの作用によって甲状腺機能低下を来すとともに、自然免疫系が活性化されることによってアジュバント効果が高まり、最終的に自己免疫を発症する誘因ともなる可能性が示唆された。
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