生体防御メカニズムの1つである止血機構は同時に、心筋梗塞などの致死的動脈血栓症発症のトリガーともなる。止血栓形成は血小板凝集ξ血液凝固の2つが協調的に機能することで形成されるが、従来の止血機構研究は手技的な困難のため、この2つを各々独立させて行われてきた。本研究では、生体での血小板凝集および血液凝固を包括的に、かつ赤血球、白血球をも含む全血で、血管壁成分を加えた生理的血流環境で評価し、生理的および病的血栓形成メカニズムの解明に取り組んだ。高感度高速共焦点顕微鏡を新たに導入した新規フロー実験システムで、リアルタイムな壁血栓形成過程における血小板凝集および血液凝固をin vitroで評価した。 本研究初年度〜2年度には、血小板機能と血液凝固のinterplayの基盤と考えられる壁血小板血栓形成過程におけるトロンビン形成に焦点を当て、全血生理的血流下での血小板膜のprotease activated receptors(PARs)の機能を解析した。PARsを介した血小板活性化シグナルが血小板膜上でのCell-based coagulationをupregulateすることを明らかにした。また、このCell-based coagulationと血小板血栓形成過程とのinterplayを分子・細胞レベルで解析した。血流下での血栓内フィブリン網形成と血栓の3次元的成長および、動脈血栓塞栓症の主因のプラーク破裂のリスク因子との関連を明らかにした。研究最終年度(平成17年度)にはひきつづき、全血生理的血流下でのCell-based coagulationの分子メカニズムの解明に取り組んだ。その結果、血小板膜上で起こる血液凝固反応は、(1)血小板膜におけるphosphtidylserineの膜表出が反応の場を提供することで開始する。(2)ここで血小板膜発現したp-selectinが血液由来組織因子を捕獲してトロンビン形成が爆発的に進行する。(3)結果として血小板血栓上のフィブリン沈着が進行する。との一連の分子メカニズムが血流下での実験で明らかとなった。
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