研究概要 |
我々は純化したESヘマンジオブラストと成獣骨髄造血幹細胞との間のmRNA発現比較により、後者で高発現する遺伝子を20種類以上同定した。そこには、SHP1,c-mp1,Nore1などの既知遺伝子に加えて、機能未知の遺伝子(コード名S76)が含まれていた。S76 mRNAは非造血系細胞ではわずかにしか発現しておらず、骨髄においてはc-Kit^+Sca-1^+Lin^-CD34^+細胞分画よりc-Kit^+Sca-1^+Lin^-CD^34^-細胞分画でより多く産生されていた。cDNA塩基酸配列情報から、S76 mRNAは膜タンパク質をコードしていると予測された。次に、S76の機能を探索する目的で、造血幹細胞のin vitro培養系にS76 mRNA発現を抑制するsiRNA-EGFPレトロウイルスベクターを感染させた。得られたEGFP陽性細胞をコロニーアッセイしたところ、空ベクター感染コントロールと比べてサイトカイン応答性の造血前駆細胞数が著しく低下していた。一方、c-mp1 cDNAを強制発現させたMC/9肥満細胞株トランスフェクタントにおいてS76遺伝子の発現を抑制させたところ、IL-3やTPOに対する増殖応答が逆に昂進した。以上の結果は、S76遺伝子産物が血液細胞のサイトカイン応答を制御する新しいコンポーネントである可能性を示唆する。S76遺伝子の造血発生における役割を明確にすることをめざして、S76遺伝子欠損マウスを作出した。このマウスではS76遺伝子座にVenus(変異型GFP)cDNAをノックインされており、期待通りS76ヘテロ欠損マウスの末梢血では、Lin^-分画の一部のみがVenus陽性であった。今後、このマウスの胎生期造血を詳細に解析することで、S76遺伝子の機能のみならず造血幹細胞発生の新たな制御因子の存在を証明できるものと期待している。
|